第16回「英単語の学習方法(スピンオフ)」

熟語学習のポイントはニュアンスの変化

熟語といっても様々な形態のものがあり一般化してまとめるのは困難です。

今回は、よく見かける〈動詞+副詞〉の形に注目してみましょう。これらのケースでは、動詞の後に副詞が続くことで、動詞単独では表現できないニュアンスが加わります。

つまり、熟語への理解を深めるには、副詞の持つニュアンスをつかむことが鍵になります。

なお、単語によっては前置詞と副詞の両方を持っているものもありますが、動詞の後ろについてニュアンスを加えているものの多くは副詞です。副詞は形容詞や動詞にニュアンスを足すのが役割だということがわかると、自然に納得できるかと思います。

熟語を勉強する時に、動詞のパートナーが副詞か前置詞かということに気を遣いすぎる必要はなく、その単語の中心的イメージをつかめば、前置詞でも副詞でもあまり大きな影響はありません。

実際の熟語学習の中の副詞

「副詞」=初めての熟語と出会ったときの ” 助け舟 “

「見たことのない熟語に文章中で出会うと困る」という声をよく聞きます。
なぜ困るのか。それは、熟語における副詞が持つ情報を生かせていないからです。
文脈と副詞の持つイメージを突き合わせれば、熟語の意味は大体のケースにおいて理解できるようになっています。
どういうことか、例を見てみましょう。

例文)
It took long to put the fire out.
この文には、put out(=火や明かりなどを消す)という熟語が登場します。この熟語の意味を知らない場合、どのように推測すればいいでしょうか。まず、文脈から「火(the fire)に何かをしたのだな」という情報を得られますね。そこに、outの”箱の外”というを加えます。そうすると、「火を元あった場所から外す」と連想することができ、「火を消す」という本来の意味にスムーズにつながります。ちなみにこのoutは副詞です。(”箱の外”というoutのイメージは、私の創作イメージです。皆さんも自分の納得するイメージを描けるようになってください。文章中の熟語をきれいな日本語にしようとする必要はありません)

副詞が熟語を覚える手助けになる

副詞のイメージと熟語そのものの意味に一貫性がある場合は、副詞が動詞にどのようなニュアンスを与えているのかを意識すると新しい熟語でも覚えやすいです。
逆に言うと、両者の間に一貫性がない場合は、覚えにくいということです。そのような熟語と出会ったらチャンスです。例文と共にノートにメモしておき、それから辞書で副詞の意味を確認してみましょう。

例えば、bring aboutという熟語はどうでしょう?aboutというと「おおよそ」の意味でとらえることが多いですよね。bringとくっついたら何が起こるのでしょう?

答えを先に言うと、bring about~で、「~を引き起こす」という意味になります。最初はすんなりと飲み込むのが難しいかもしれません。大事なのは、動詞と副詞を分解して考えることです。どちらも、元々単独で意味を持つ単語です。bringには「物を持ってくる」という意味がありますよね。aboutを辞書で引くと、副詞として「周囲に」というニュアンスを持つことが分かります。二つの意味を足し合わせると、「周囲に何かを持ってくる」という動作が出来上がります。bringだけだと、こういうニュアンスを作り上げるのは難しく、そこでabout が一役買っているわけです。

以上のように、bring about~=「~を引き起こす」と丸暗記するのと、熟語を構成するピースに分けて理解するのでは、どちらが覚えやすいでしょう?このように分解して理解することで、bring aboutの主語に間違って「引き起こされるもの」を持ってくることもなくなるでしょう。そして、about という単語についてのイメージを拡大してみてください。「周辺」というイメージはどうでしょう。「おおよそ」というのも結局は正確な値の周辺にあるものを示すときに使いますよね。

このように、副詞にもやはり中心的な意味合い(コアイメージ)があり、全ての意味はそこから派生しています。数ある意味(訳語)の中からしっくりくる意味を見つけたなら、コアイメージからどのように派生しているのかを自分なりに考えてみてください。熟語をきっかけに深めた副詞の理解は、他の副詞を理解する際にも応用できる、あなただけの貴重な財産になります。

 

先ほどの例文 (It took long to put the fire out.)から何か学べないか考えてみましょう。

outのコアイメージは“箱の外”だと紹介しましたね。その例文を使ってイメージを広げてみましょう。

辞書を引くと、outには「なくなって、消えて、尽きて」という意味があります。
次に、ここで調べた意味とコアイメージがどのように関連しているのかを考えてみます。

“箱の外”というイメージだけだと、何かがすでに箱の外に置かれているという状態を思い浮かべてしまいます。しかし、outの守備範囲は広く、物が箱から飛び出すような、矢印が外に向けて伸びていくような動きも表現できるということが分かります。伸びていき、遠ざかり、最終的に見えなくなり消えるというイメージでしょうか。。

さらに今回のケースでは、火は自動的に消えるのではなく、誰かが動作を起こして火を消すというように、火はあくまでput outという熟語の目的語だと分かります。そうすると、“主語が目的語の位置を動かす”イメージのputという動詞との相性の良さにもうなずけます(putのイメージも、あくまで私のオリジナルのイメージです)。

このように、文章中で知らない熟語に出会ったら、副詞を手掛かりにその熟語全体の意味を考え、辞書を使って理解を深めるというクセをつけましょう。

熟語こそ、単語帳を使って学習するのではなく、実際の文脈の中で学習していく方が分かりやすく、学習の近道であるといえます。

 

熟語の学習フェーズについて

具体的に示すと、熟語学習には以下の二つの学習フェーズがあります。
読んだり聞いたりして意味を理解できるフェーズ
自分で書いたり話したりする中で適切に使えるフェーズ

のフェーズに達するためには、上記で紹介した学習法を実践すると効果的です。

一方、に関しては、達成するのに時間を要します。似て非なる熟語がたくさんあるので、適切に使えるようになるには、様々な文脈の中で何度もその熟語に触れることが欠かせません。

焦らずに勉強していくことが重要です。特に、インプットをしっかり行うことに重きを置きましょう。