このシリーズは私の外務省勤務を通じて得られた知識と経験に基づき、出来る限り正確な情報をお伝えすべく努力して書いたものですが、誤りがありましたらご容赦ください。言うまでもなく外務省の立場を述べたものではなく、あくまで個人的な見解です。
リンガハウス理事長
岩谷 滋雄
(東京外国語大学オープンアカデミー教養講座講師、元駐オーストリア大使、元日中韓三国協力事務局・事務局長)
アジアの言語・文化・社会編
ASEAN Wayと呼ばれる国民性
インドネシアは宗教的にも民族的にも言語的にも大変多様性に富む広大な国であり、「多様性の中の統一」というのが国のスローガンとなっているが、その国民性はジャワ人の「オラン・ブサール(大人:タイジン)」に代表されると思われる。即ち、常に冷静で、あわてず騒がす鷹揚に行動するということである。このような振る舞いはASEANに共通する特性と見られ、今ではASEANの統一を維持するための技法の一部ともなり、ASEAN Wayと呼ばれるようになった。その意味するところは、各国の主権を尊重し、どの国に対しても何かを無理強いしたりするようなことはせず、一番遅い国にペースを合わせて一緒に進んでいく、ということである。特定の国、特に大国がリーダーシップをとるようなことも差し控えられ、よって劇的な動きも見られず、見ていてじれったいという印象もあるが、これ以外統一を維持する方法はないということであろう。
その特色の一つと言えるかどうかはわからないが、時間にルーズな人が多いのは事実である。インドネシアでは「ゴム時間」(Jam Karet)という言葉がある(小牧利寿著『ゴム時間共和国インドネシア「楽天大国」の素顔』日本経済新聞社、という本がある)。時間はゴムのように自由に伸び縮みするものだ、という意味である。予定に縛られるのは人間らしくない、ということであろう。日本では会議の始まる10分前には席についているというのが常識であり、ゴム時間などはとても許されるものではなく、イライラさせられることが多い。
しかし世界を見渡すと、時間にルーズな人の方が多いのではないかと思う。例えば、ニューヨークの国連で働いた時に経験したことであるが、国連の会議は時間通りに始まらないのが普通であり、ひどい時は開会が1時間以上遅れることもある(もっともこれはルーズさだけが理由ではなく、その間に様々な裏工作が行われているのだと言う)。
アフリカでも同様で、ケニアで勤務した時は、9時から始まる、と言われてその時間に行っても会場はがらんとしていて誰もおらず、10時になっても11時になっても始まらない、ということがよくあった。彼らに言わせれば、世の中常に予想されなかった事態が起こるものであり、それに合わせてスケジュールが変わるのは当然、ということになる。それならそれで何時間遅れると知らせてほしいものだが、会場で待機している人は誰もいつ始まるのかについて確たる情報を持っていないのが普通である。
アフリカについてもう一言:
アフリカと言えば動物の王国というイメージがある。れっきとした都会もあるのだが、自然公園が多いのも事実である。「サファリ」と呼ばれる大自然に生きる動物の生態をそのままの姿で観察することが出来るツアーを楽しめるのは、恐らくアフリカ大陸だけであろう。昔は動物の狩猟がサファリと呼ばれたが、今はカメラで動物たちを捉えるのである。広大な平原を車1台で走っていると自分が大自然の中のちっぽけな存在であることを実感し、人間社会の煩雑なことなどはどうでもよいことだと思えてくる。日本で学校でのいじめや家庭内暴力・パワハラ等が社会問題になっているが、このような問題を引き起こしている人も、その被害者で登校拒否や引きこもり状態になっている人も一度アフリカに来てサファリを体験し、自分の生き方を見直すきっかけにしてくれればなあ、と思ったものである。