この回では、スピンオフという形をとって、英語的思考法を実践するために欠かせない「かみ砕き」の練習をしようと思います。
「かみ砕き」とは?
「かみ砕き」については、前回の記事「アウトプット型学習」で取り上げました。
インプット型学習で培った英語的発想を、実際にアウトプットする際に重要なのが「かみ砕き」です。言いたいことを自分の使える英語で表現できるレベルまで掘り下げ、突き詰めていきます。
要は、言い換えです。“結局何が言いたいの?”と自問自答していく作業だと考えてください。英文を組み立てる際に「かみ砕き」をどれだけうまくやるかが鍵を握っています。
かみ砕いたものをどのように英語に直すか
驚かれるかもしれませんが、どれほど複雑なシチュエーションでも簡単な英語を組み合わせて文を作ることが多いです。中学校で習うhave, get, make, take, put, bringなどの単語ほど奥が深いです。このような自分の知っている単語でなんとか表現できるように、原文を噛み砕いていきます。
スピーキングになるとこの一連の流れを即座に行う必要があるため、より練習が必要です。
かみ砕き → 本質を突き詰める練習! かみ砕きの現場を見逃すな!
習うより慣れろということで、まずはやってみましょう。皆さんは次の文を英語で言うことができますか?
「ニューヨークでの生活は慣れないことも多く、生活に適応するのに時間がかかった。日本から離れてみることで、家族のありがたみを感じる。」
講師目黒は現在ニューヨークに留学に来ているのですが、この例文は、渡米後2週間の時期に自分自身が抱いていた切実な感想です。
平易な文ですが、このような何気ない表現や日常会話ほど、実際に英語にしようとすると難しいものです。
留学生活では、普通の会話の難しさを日々実感しています。授業でアメリカ政治についてのレポートを書くよりも、友達と他愛もない話をする方が実は難しいのです。専門的な話は使う表現も限られているため、逆に楽な部分があります。それに対して、日常の会話は英語的発想が試される場だと肌身をもって感じています。
それでは文章を3つのパートに分けて、実際に「かみ砕いて」いきましょう。
- 「ニューヨークでの生活は慣れないことも多く、」
「慣れないことも多く」というのが難しいポイントだと思います。
ここで、英語で慣れないってなんて言うのだろう? と考えてはいけません。全体の文脈を考慮せずに「慣れる」などの単語レベルでかみ砕こうとすると、ただの単語の置き換えになってしまいます。ある程度意味のまとまりを保ちながら、じっくりかみ砕いていきましょう。
慣れないことが多いというのは、結局どういう状況なのか?
なぜ慣れないことが多いのか? −日本と違うことが多いからではないか?
…と私なら考えます。
ここで重要なのが、かみ砕いた後に、その結果がもともと言いたかったことと本当に合致しているか確認することです。不十分な場合はさらにかみ砕いていきます。
「日本と違うことが多い」だけではまだ、原文の「慣れないことが多い」を十分に説明しきれているとは言えません。
では何が足りないのか? 「日本と違うことが多い」という原因によって、どのような結果(状態)がもたらされたのかを付け加えた方が良さそうです。日本との違いに「戸惑う(confused)」状態が私の考える「慣れないことが多い」状態と合致します。私の場合は戸惑いですが、人によっては「驚き(surprised, overwhelmed)」という感情などがしっくりくるかもしれません。
さあ、最終的に、「慣れないことが多い」を「日本と違うことが多くて戸惑った」というレベルにかみ砕きました。これなら、自分の言いたかったことと合致しています。
ここで初めて、「日本と違うことが多くて戸惑った」を実際に英語にしていきます。
In New York, I was confused because everything was so different from Japan.
(かみ砕き文:ニューヨークでは、日本と違うことが多くて戸惑った)
どのように英語にしていくかは人や文脈によって変わってくると思います。
かみ砕きの道筋に正解はありません。10人いれば10人違った発想でかみ砕くのが自然です。
発想の仕方は自由ですが、重要なのは物事の本質を突き詰めていくイメージを持つことです。
物事の本質を探るためには、隠された背景をあぶりだすことも重要です。状況を整理することで、本質が見えてきますし、それだけ英語に直すのも楽になります。
- 「生活に適応するのに時間がかかった。」
この文章をかみ砕く際に注目するべき点は、主語です。
日本語的な考え方をすると、生活に適応することが主語となります。ただ、英語は頭でっかちを嫌う言語なので、長すぎる主語には代打itを送ります。It took me awhile to… という風に持っていこうという構想ができ上がりました。
ちょっと待った。かみ砕く前から英語を使ってるじゃないか! と思ったあなたへ。先に文のフレームを確定させて、その後でかみ砕きが必要な部分を明らかにする方がスムーズにいくケースもあるのです。
それでは、「生活に適応する」という文をかみ砕いていきます。
まず、適応するのは自分です。適応するというのは、自分自身を新しい環境に合わせて調整することだと表現できないでしょうか。このような発想によって、adjustという単語を使えばいいのではないかと思いつきました。まるでエアコンの温度を調整するように、新しい生活でうまくやっていけるように自分自身を調整するイメージです。
It took me awhile to adjust myself to a new life.
(かみ砕き文:自分自身を新しい環境に合わせて調整するのに時間がかかった)はいかがでしょうか。
- 「日本から離れてみることで、家族のありがたみを感じる。」
この文を使って、英文を組み立てる際に重要になってくるポイントをもう一つ紹介します。
それは、主語の置き換えです。
自分の話をしているのだから、主語をIにしてしまいたくなりますよね。しかし、実は「日本から離れてみること」を主語にすることもできます。
先ほど「頭でっかちを嫌う」といいましたが、時と場合によります。時間がかかるという表現は一般的にitを使うということが慣れで分かっていたため、あえて頭でっかちな主語を作ろうとはしなかったのです。
今回は違います。因果関係を表現する際に、原因を主語にして結果を目的語として分を組み立てることがあります(「〜したことが、結果として(動作主に)…させた」といったイメージです)。このように説明すると固く聞こえますが、要は発想の転換です。無生物主語が一般的な英語だから使える発想です。
うまく英作文できないときは、本当に人が主語でないといけないのか? 他の物を主語に置けないか? と考えてみてください。そうすることで、すっと文章ができ上がることはよくあります。
今回の主語も、Being away from Japanと置いてみます。
次は動詞。無生物を主語に置いた際に一番ワクワクするのは動詞を何にするかです。
私は、日本を離れなければ身近な家族の存在に十分に感謝できなかったかもしれないということを表現したいので(かみ砕き中です)、次のように英語にしてみます。
Being away from Japan helped me realize how much my parents mean to me.
(かみ砕き文:日本から離れてみることが、私に「家族が自分にとってどれだけ大切か」をはっきりと理解させた)
上記の思いをhelpという言葉に込めました。日本から離れて生活するという機会に感謝をしているイメージです。「家族のありがたみ」という部分に関しては、「家族が自分にとってどれだけ大切か」と同義だと感じたので、上のように並べました。
全て揃ったので、合体してみましょう。
In New York, I was confused because everything was so different from Japan. So it took me awhile to adjust myself to a new life. In addition to that, being away from Japan helped me realize how much my parents mean to me.
(原文:ニューヨークでの生活は慣れないことも多く、生活に適応するのに時間がかかった。日本から離れてみることで、家族のありがたみを感じる。)
(かみ砕き文:ニューヨークでは、日本と違うことが多くて戸惑い、自分自身を新しい環境に合わせて調整するのに時間がかかった。日本から離れてみることが、私に「家族が自分にとってどれだけ大切か」をはっきりと理解させた)
長くなりましたが、しっかりとかみ砕くことで、日本語的思考を介在させることなく自然な形で英文を作ることができました。
丁寧なかみ砕き作業によって自分にしかできない唯一無二の表現を生み出せる楽しさが、皆さんに伝われば幸いです。
随所にちりばめた「かみ砕き」のコツを最後におさらいしておきましょう。
✔︎言いたいことを自分の使える英語で表現できるレベルまで掘り下げよう
✔︎物事の本質を突き詰めていくイメージを持ちながら、言いたいことを整理しよう
✔︎かみ砕いた後に、その結果がもともと言いたかったことと本当に合致しているか確認しよう
✔︎先に文のフレームを確定させたり、主語の位置に置くものを変えてみたりすることによって、文が作りやすくなるケースもある
焦らずに、最初からできなくて当たり前と思いながら、気長に練習してみてください。