20歳大学生が考える「言語とは何か」【第3回 大学で英語を専攻するということ】

 

第3回

大学で英語を専攻するということ

東京外国語大学 言語文化学部
小原

 

音声学

 第2回のブログの後半に、世界の英語変種の話を書きました。世界各地で使われている英語は様々で、それぞれに特徴があります。そうはいっても何がどう違うのか、それが一番良く表われるのが、発音やアクセント、イントネーションです。これらを扱うのが、音声学と呼ばれる学問です。「大学に行ってまで英語をやっていて、どんな勉強しているの?」と友人に聞かれることがしばしばありますが、一番特徴的でかつ分かりやすいのが、この音声学かなと思っています。音声学の何がすごいかと言うと、音声を聞かなくても、そこそこの発音が出来るようになるということです。国際発音記号(International Phonetic Alphabet, IPA)によって発音するのですが、この発音記号自体は、実は誰もが辞書を引いたときに一度は見たことがあるはずです。例えば、「辞書」を意味する単語”Dictionary”の発音記号は、/ˈdɪkʃəneri/のように書いてあります。記号一つ一つについて、舌をどこに当てるのか、口の中のどこに隙間を作っていつ空気を出すのか、声帯は震わせるのか、などを覚えていきます。意外とこれが楽しい過程でした。
 ちなみに、やっぱり耳で聞きたいという人は、東京外国語大学言語モジュール(https://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/en/)というサイトがお勧めです。アメリカ英語、イギリス英語のみならず、様々な英語の会話を聞くことが出来ます。大学入試で発音・アクセントの問題そのものはあまり出なくなりましたが、代わりに多様な英語によるリスニング問題も出てきています。是非、御一聴ください。

学園祭での英語劇『不思議の国のアリス』の一コマ。左から二番目が小原

文学
 私が苦手だということもありますが、これぞ大学レベルの本領発揮と言うべきか、苦しいのが文学の授業です。中学・高校の国語の授業で、ライトノベルではなく、夏目漱石や太宰治などの文豪の作品を扱うように、私たちもやや古い作品を読んでいきます。そうすると、単語はとても難しいし、文構造も今日馴染みのあるものではありません。とにかく辞書を引かないと分からないし、でも全部引いていてはとてもじゃないけど予習が終わらない。公な場所でこんなことを書くのもナンセンスですが、和訳本や翻訳サイトに手を出すこともあります。でも、大抵それらはあまり精度が高くなく、役に立ちません。必死に予習をやっていると、「ああ、これが語学をやるってことなのだな」としみじみ思います。前の学期で、アングロアメリカンの文学の授業とシェイクスピアの講読の授業のどちらも単位を取得できたときの感慨はひとしおでした。

そもそも大学とは
 大学は、小学校・中学校・高校とは異なり、研究機関という側面があり、教育基本法第7条には「大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。」とあります。(文部科学省, 2006)したがって、学部生といえども研究者の卵です。だからこそ、というべきか、授業で提出するペーパー、エッセイ、論文にも責任が伴います。世界基準の様式であるAPAスタイルやMLAスタイルを学び、これを遵守して書きます。それもブログのように好きに書いて良い訳ではなく、先人の論文を引用しなければならず、その引用の仕方にも厳密なルールがあります。他人に、といっても教授一人かもしれませんが、見てもらうものである以上、英語にも細心の注意を払い、きちんとした英語かどうか確認しなくてはなりません。私にとってこれらのことは本当に大変で、「君の英文はよく分からない」、「引用の仕方がおかしい」などのフィードバックをもらうこともしばしばあります。心が折れそうになることもありますが、逃げ出すことも出来ないので、愛の鞭だと思って何とか頑張っています。
 あまりこんなことを書いていると、大学生活は楽しそうじゃないと思われるかもしれませんが、そんなことはないですよ。気の置けない仲間とも出会え、サークル活動にも勤しめる楽しい場所です。

 

続く。次回のテーマは、「思考言語」です。 ガラッと内容が変わりますよ。