20歳大学生が考える「言語とは何か」【第5回 まとめ】

 

第5回(最終回)

まとめ

東京外国語大学 言語文化学部
小原

 

言語とは何か

 「言語とは何か」と銘打った割には、これまでなかなかその中心的な意見に触れることなく、ここまで書き進めました。私なりの答えは、「言語とは、歴史と文化を内包した化石であり、今なお進化を続ける生物であり、人に与えられた宿命であり、浪漫である」ということです。「化石」に関する話はあまり書けませんでしたが、言語は、時代に合わせて変化し、各時代に受けた影響が今に残っている、ということを表しています。例えば、英語は、アングル人・サクソン人と呼ばれるゲルマン人の一族がブリテン諸島へ移動したところに始まり、ヴァイキングの襲来で古ノルド語の影響を受け、ノルマン征服でフランス語の影響を受け、ルネサンスでラテン語・ギリシア語の影響を受けてきました。こうした歴史は、現代英語の語彙に表われています。「生物」に関する話は、世界の英語変種のところで少し触れました。グローバル化によって世界の様々な場所で英語が使われるようになったことで、様々な地域の言語や文化を吸収しながら、英語は進化しています。英語に限らず、生身の人間が生まれた瞬間に出会い、この世を去るまでともに成長し続けていくものであるという点で、言語は「生物」だと思います。

オークランド大学で短期留学を共にした仲間と。下段右から三番目が小原。

宿命であり浪漫

 言語が「宿命」だと思うのは、人は言語を使ってコミュニケーションをとるのが当たり前の世の中であるからです。コミュニケーションの手段として、古代には縄の結び方でやりとりをしていた文化もありますが、現代の膨大な情報量がカバーできるはずがありません。結局のところ、発音や文字、語彙や文法の体系を持った何らかの言語を使ってコミュニケーションをとることは、人が生きていくうえで避けては通れない道なのです。また、言語は個人のアイデンティティになり得るということも関係します。言語アイデンティティは、本人にとってポジティブな場合もネガティブな場合も、必然的にまとわりつきます。例えば、日本語には方言があり、方言を話す人は、好印象をもって迎えられることがほとんどだと思います。しかし、標準的ではない訛りやアクセントで話すことで、出身地や階級を特定され、いじめにつながるなど、非常にネガティブに働くといった国や地域もあります。いずれにせよ、その人が使う言語は、アイデンティティとして非常に大きく働きます。

 言語が「浪漫」だと思うのは、言語を学ぶこと自体が、やはり楽しいことだからです。言葉の知識に終わりはないし、自分が苦労して覚えた単語がテクストに出てくると、とても感動します。また、外国語である英語を話している時の自分は、テンションがいつもより一段階上がり、何だか別の人になったような感じがします。言語が新たな自分を引き出してくれるというのは、とても楽しい経験です。

 東京外国語大学には、いわゆる「二外」(第二外国語)という言葉を使う人はあまりいません。多くの人が、3つ目、4つ目と、どんどん新たな言語を勉強します。多ければ良いというものでもありませんが、たくさんの言語を学ぶことは、よりたくさんの人たちの「化石」や「生物」に触れることになります。言語を通してそれぞれの地域の歴史や文化、その変容する現在を知ることで、それぞれの考え方に寄り添うことができます。言語を使ってコミュニケーションをとり、話し合うことができます。こうしたことが、ひいては世界の平和につながっていくのだと思っています。言語を学ぶことが世界平和につながると思うと、これはもう「浪漫」ですよね。

最後に

 ここまでお読みいただいた皆様、本当にありがとうございました。大学で習った知識をひけらかすような部分もあり、愚痴のような部分もあり、ただの思い出話のような部分もあり、非常に見苦しかったものと思います。それでも、自分の書きたいことはだいぶ書けたので、この場をいただけていることにも感謝します。最後の最後ですが、以上5回のブログはただの20歳の大学生の戯言ですから、どなたもこれを引用されないことを強くお勧めいたします。

 それではまた、リンガハウス教育研究所でお目にかかりましょう。