あなたも外交官―外国人との異文化交流の秘訣 アジアの言語・文化・社会編 I. 外交官の仕事とは

 

このシリーズは私の外務省勤務を通じて得られた知識と経験に基づき、出来る限り正確な情報をお伝えすべく努力して書いたものですが、誤りがありましたらご容赦ください。言うまでもなく外務省の立場を述べたものではなく、あくまで個人的な見解です。

アジアの言語・文化・社会編

I. 外交官の仕事とは

1. 戦前の外交官―貴族階級がメイン

1873年に開館した駐オーストリア・ハンガリー帝国日本公使館の8代目特命全権公使はどんな人だったか:

<公使本人:戸田氏共(うじたか)>

美濃大垣の最後の領主、後に大垣藩知事、その後米国で鉱山学を学び、帰国して工部省で働き、伯爵に叙される。その後外務省で働き、駐オーストリア・ハンガリー帝国公使となる。

<同夫人:極子(きわこ)>

岩倉具視の長女、幼少の頃から山田流の筝に堪能で、ウィーンにも筝を携行し、夜会で演奏することもあった。ブラームスがそれを聞いて採譜した。

(日本ブラームス協会編「ブラームスの「実像」」より)
(注)夫人の役割は社交・家の切り盛りのために重要(語学力・社交力・家柄が役立つ)

 

2. 今日の外交官

国家公務員
国家公務員(終身雇用・海外勤務の際は環境に応じた特別手当など・退官後の職場は少ない)であり、公務員試験(または外務省独自の専門職試験)と面接で採用される。
財務省と違い東大卒の割合は低く、個性豊か(官僚色薄い?)で、体育会系(例:奥克彦大使)の方もいる。
外務省2世が多いのは事実(やはり特殊な世界?語学の問題?)である。

外交官の役割
厳しい利害対立を調整し(ウィン・ウィンの世界に外交官は不要)、国際社会での日本の地位を高める(健全なナショナリズム、「弱腰」との批判)役割や国民に直接役立つ業務(邦人保護・旅券発給・証明)を行う。

本省における外交官の仕事
以下のような仕事があげられる。

各種条約の交渉・締結:対処方針の作成、交渉、締結、国会承認手続き

海外での大きな事件への対処:日本の立場表明、相手国政府への申し入れ、緊急援助、邦人保護

国際会議への対応:国際機関等の会議に出席し日本の立場を主張、日本にとって有利な結論となるよう努力する

開発援助:援助方針の策定、実施中のトラブルへの対応、事後評価、国際協力機構(JICA)の活動の監督、財務省との予算折衝などを行う

広報・文化交流:何をどう広報するか、どのような日本文化をどのように紹介するか、を考え、在外公館や国際交流基金に指示する

領事業務:旅券・ビザ・証明業務の運営し、改善策を考える(海外在留日本人の利益保護・生活環境改善策、外国人の入国・在留の円滑化策)

在外公館における外交官の仕事
以下のような仕事があげられる。

現地情勢のフォロー、情報収集、本省への報告(会食が効果的)を行う

訓令の執行:本省からの指示に従い相手国と交渉する

意見具申:現地から見た意見を本省に伝えて本省の政策に反映させる

広報活動:その国に応じた広報活動を企画・実施する

文化交流:大使公邸などを利用して日本文化の紹介行事を企画・実施する

領事業務:旅券・ビザ・各種証明書の発給、邦人保護、日本人学校への支援

叙勲・表彰:候補者を本省に推薦、伝達式を実施する

公邸行事(天皇誕生日レセプションなど)の企画し、実施する

 

3. 外務省とつながりのある政府関係機関・国際機関

政府関係機関の例としては、JICA(国際協力機構)、JETRO(国際貿易振興機構)(経産省所管)、JST(科学技術振興機構)(文科省所管)、JF(国際交流基金)、JSPS(日本学術振興会)(文科省所管)、CLAIR(自治体国際化協会)(総務省所管)(外務省と共にJETプログラム所管)、日本台湾交流協会(公益財団法人)などが上げられる

この他、国連機関、専門機関、世銀・IMFファミリー、地域機関(EU、AU、OAS、ASEAN、日中韓三国協力事務局(TCS)などともつながりを持つ。

 

4. 特命全権大使とは

元首から元首に派遣される形をとる。

長い伝統により確立された任命・解任手続きがとられる。

アグレマン→大使としての認証式(皇居)→駐箚国正式決定→夫妻で両陛下に御挨拶→赴任→信任状の奉呈・天皇陛下からのお言葉の伝達→帰国命令→解任状→両陛下への御挨拶(国によってはかなり簡素化されたやり方となっているが、少なくとも相手国元首との面談は必ず行われる)。

 

5. 大使公邸の現実

私的部分と公的部分に分かれ、私的部分に大使およびその家族が居住する(家具・調度品は私費で整え、国に家賃を払う)。

公的部分は大使主催のレセプション・会食・各種イベントを行うところとなる(調度品は公費で整えられるが私物を使うことも)。公的部分の家具・調度品などで国としての魅力のみならず大使の個性が現れることとなる。

日本や前任地から帯同した料理人が同居したり(その給与の半分は大使の個人負担であり、大使一家の私的な食事も用意する)、現地で採用した使用人が住み込みや通いで働いており、その指揮監督は大使館官房班と大使(夫妻)が行う。

大使館官房班と共に公邸施設の維持管理を担当する頼りになる「バトラー」(公邸に勤務して管理一般を担当)を雇うことのできる公邸は少なく、大使自身の管理負担は大きい。

大使公邸で一般的に行われる行事としては、在留邦人との懇親会(新年会など)、自衛隊記念日レセプション(毎年7月1日前後)、天皇誕生日(ナショナル・デー)レセプション(天皇誕生日に合わせて行う)、勲章の伝達式(随時)、様々な来客を招いての会食、日本文化(コンサート・美術展など)・日本産品紹介行事などがある。

 

6. 外交官に望まれる資質

外国語(できれば2つ以上)に自信があること、体が丈夫であること(勤務環境が厳しい)、国際政治・安全保障・国際経済への高い関心や政治的センス(直観的判断力)があることがあげられ、さらに理想的には社交的で、円満な人柄であること(在留邦人とも節度を持って付き合えること)、幅広く世の中の事象について好奇心を持ち、一定の知識を有していること(そのほとんどが外交の対象・社交のツールになる。特に大事なのは軍事、金融、経済)。

また祖国日本を愛し、一つでも二つでも日本文化を嗜んでいること、駐在する国の欠点のみならず長所を見出すことができることなども望まれる。

 

<外国語習得の苦労>

私は英語の勉強は好きな方であったが、それでも英語を仕事で使えるようになるまでは大変苦労した。結局のところ、あまり抵抗なく英語が口から出てくる、という感じを味わえるようになったのは外務省で働き始めてから30年後、ハワイで総領事の仕事をした頃であろうか。

その間のプロセスは、大体次のようなものであった。

中学・高校、そして大学でも英語のゼミをとるなどして中級程度までの読み書きはできるようになった。

外務省入省直後、聞き取りと話すことができないことを身にしみて感じる。

米国の大学に留学して半年後、授業がある程度聞き取れるようになる(テレビのホーム・ドラマやクイズ番組を見ることにより、聞き取りが鍛えられた)。

2年間の留学で仕事をこなすのに必要なレベルの英語はマスターできたが、日常会話のための語彙や表現力が不足しており、社交での会話は億劫であった。

ハワイで館長となり、人と英語で会話する機会が増え、即興のスピーチもしなければならなくなって急速に会話力が上達した。しかし、未だに表現力の不足を感じており、滑らかに話すのは難しい。

 

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