不登校から東京外国語大学合格まで 〜生きづらさを抱えたあなたへ〜『第5章』

第5章
東京での新しい出会い

 東京に滞在している間に東京にいる母の友人から連絡があった。その方は東京外国語大学を卒業し、ポーランド観光局で働いていた。母から当時の私の状況を聞いて、なんとか私の助けになることをしたいと言って、かつて息子さんが通っていた予備校でその方と息子さんと予備校の先生と私で話をした。忘れかけていた大学受験についての話もした。予備校の先生は、目的を見つけられずに道を迷っている私に、大学に行かないで腐っているのと大学に行って自分に自信を持てるようになるのとどちらが良いか、といった旨の質問をした。私はそれに対して思わず後者を答えていた。そして、「もし大学に合格しなかったら人生が終わる」と言われたら、どうだ、お前は甘いんだよ、お前には大学受験に対する覚悟がないんだよ、といったことを言われた。とにかく恐ろしくて今でも言われた時のことを思い出すと怖くなる。しかし、その先生が言ったことは本当だとも思った。私は大学受験、より大きな視点で見れば人生そのものに向き合う覚悟がなく、ただ逃げては、自分の境遇を嘆くばかりの日々であった。もちろん逃げることが必要な時期もあった。しかし、様々な経験を通して、少しずつ自分の可能性を押し広げ、自分で生きる力がついてきていたので、そろそろ自分の人生と向き合って自分の道を自分で切り開かなければならない時期に来ていたのだった。その先生は、乱暴な方法ではあったが、私にそのことを教えていたのだった。しかし、この出来事があった直後はまだそれに気づいてはいなかった。

 知らない予備校の先生に打ちのめされたその夜、演劇のワークショップに参加した。Aさんはとある劇団の元団員であったため、実際に芝居もしながら、一緒に唐十郎の脚本を読み込み、演劇のノウハウについて学んだ。台本を読んでいる中で、私はその日にあったことについて話した。あまりに辛かったのでこのことを聞いてもらえば気が楽になるのではと思ったのだ。するとAさんは、台本の中の、ある台詞を指差して言った。
 「その先生が言っていることは確かに正論かもしれないけど、ほら、この台詞『正論ばかり言う奴のことは信じられない』、あなたも確かに甘いところがあるかもしれないけど、その先生だって甘いところがある。自分の価値観で正しいと思うところを伝えようとして、そんな乱暴な言い方でただ相手を否定するようなことを言うのはどうかと思う。先生は自分の価値観をあなたも分かってくれるだろうと思っていた甘さがあった。」
 Aさんの言葉に救われた。今までその予備校の先生を含め、頭ごなしに乱暴な言い方をする大人が学校の先生の中にもいたが、気の弱い私は刃向かっても返り討ちにされて心がボロボロになるだけなので、ただ屈するしかないと思い込んでいた。しかし、そんな大人にも「甘さ」があるということを教えてもらい、気が楽になり、世界の見方が少し変わった。そして、そういった「真実」を本の中のストーリーから見出して、自分の糧にできるということもまた教えてもらった。